君をひたすら傷つけて
「いい名前を考えましょ。可愛い名前がいいか、格好いい名前がいいか?迷いそうね。でも、名付け辞典があれば大丈夫よ。その中に、この子に会う素敵な名前があると思う。でも、決めていた名前と全く違った雰囲気の子どもが生まれたら、決めていた名前と違うって思うかもしれないわ」

 結局は名前は最初のインスピレーションが大事だし、子どもに会うまではきっと悩むだけ悩むのだろう。でも、そんな話をしながら私は幸せを噛みしめていた。そんな話をしながら、慎哉さんはハッとした顔をして、私の方を見つめ、フッと息を吐いた。

「ちょっと現実的過ぎるな」

「でも、赤ちゃんの名前ってそんなものじゃない?」

「いや、今日は雅と俺との結婚記念日になるから、なんかもっとこう……二人の時間も大事にしたいというか」

 慎哉さんの言いたい意味は分かる気がした。兄妹として過ごした時間が長いから、男と女としての甘い雰囲気は毎晩、眠る前にキスはしてくれるのと添い寝するだけ。デートっぽいことも殆どしていない。きっと、そのことを言っているのだろう。

 でも、篠崎さんの結婚式の後、すぐに私は妊娠していることが分かって、まりえのマンションで過ごしていて、ここに戻ってきたのはつい最近のこと。まだ、実感があるかといえば、あまりない。

 今日、私は慎哉さんと結婚して『高取雅』になる。

 籍を入れたら、少しは実感が湧くのだろうか?

 私はその時何を思うのだろうか??
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