君をひたすら傷つけて
「じゃ、結婚式はする方向でいいな。それと、そろそろ出かける準備をしよう」

「うん。準備してくる」

「時間はあるから、急がないでいいから」

「わかった」

 時間を見ると、話しているうちに思ったよりも時間が過ぎていた。私は飲み終わったマグカップを洗ってから、着替えることにした。まだ、お腹が出てきたわけではないけど、身体に負担を掛けない服でありながら、少し可愛めの服を選んだのは可愛いと思われたい気持ちからだった。

 柔らかい素材で出来たワンピースは上品なだけでなく、どこか可愛らしさが漂う。髪を下ろしたまま、少し毛先を捲いて、軽やかにする。化粧は薄目だけど、肌が綺麗に見えるように……。今まで仕事でいくらでもメイクしてきたのに、今日はいつも以上に気を遣う。

 綺麗だと、可愛いと思われたい私がいた。

 私は恋をしているのだろうと思う。慎哉さんに綺麗だと、可愛いと思われたい。結婚するのが私でよかったと思われたい。芸能事務所に勤めている慎哉さんは綺麗な女優、可愛いタレントなどに出会う機会も多い。張り合うつもりはないけど、それでも、私は少しでも綺麗だと、可愛いと思われたかった。

 準備が出来てリビングに行くと、慎哉さんは私の姿を見て、ニッコリと笑った。

「雅、とっても可愛い」

 たったこれだけの言葉で、心の底が温かく感じるのは私が幸せに包まれているからかもしれない。

 慎哉さんは私を抱き寄せると、寝る前でもないのに、自分の唇を私の唇に重ねた……。
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