君をひたすら傷つけて
 慎哉さんらしくない間の抜けた表情を浮かべた。そして、明晰な頭脳を一気に回したのか、すぐにいつもの慎哉さんらしい表情に変わった。

「言葉のとおりよ。私と結婚して後悔しないの?子どもが出来たから、仕方なく結婚するの?だから、私に必要以上触れないの?私だけが好きで、本当は責任感だけで私と結婚するんじゃないの?」

「雅。少し落ち着け。そんなに興奮すると身体に悪い」

 慎哉さんはキッチンから水の入ったペットボトルを取ってくると、私をソファに座らせ、ペットボトルの蓋を開けて、私に渡してくれた。

「とりあえず飲め」

 私がペットボトルに口を付けると、喉に冷たい水が流れていくのを感じた。思ったよりも私は興奮していたようだった。

「まず、雅を愛しているから結婚する。子どもが出来たのはもちろん嬉しい。お腹に子どもが出来たのが、結婚しようと思う一つの要因ではあるけど、理由ではない。責任感はある方だと思うけど、だからと言って、責任感だけで結婚なんかしない。っていうか、そもそも、愛してない女を抱いたりしない。雅が愛しくて堪らないから、抱いたし、必死に行方を捜した。

 それに子どもの事だけど、雅には内緒にしていたが、ネット通販で新米パパ向けの育児書も何冊も読んだ。さすがに、家に持ってかえってくると恥ずかしいから、芸能事務所の机の一番大きな引き出しに入っているが、大事な場所には付箋も張っている。子どもの父親として恥ずかしくないようにしようとは思っている」
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