君をひたすら傷つけて
第十二章

静かな驚きの夜

 案内された部屋はスイートルームではなかったけど、高層階にある、ダブルベッドの部屋だった。ドアを開けた瞬間、あまりの豪華さに目が眩みそうになる。部屋の奥の方にベッドルームがあり、その手前にはシックな応接セットもある。バスルームもパウダールームも綺麗に磨かれたあり、日本でありながら、どこか外国のホテルを思わせた。

「凄い。でも、なんか勿体ないかも。高かったでしょ」

 このホテルは高級ホテルで有名で、宿泊費も高価なのは知っている。こんなところに泊まれたら幸せねと前に誰かと話したことのあるグレードだった。

 普通の部屋でもかなり高価なのに、この部屋は贅沢過ぎる気がした。一緒に住んでいるマンションに帰ればお金は掛からない。でも、敢えて、ここを選んでくれた気持ちも分からないではない。慎哉さんの言う区切り。

 その気持ちが嬉しかった。

「結婚した夜だから、これくらいの贅沢はいいだろ。後から、バーでも飲みに行くか?夜景が綺麗らしいよ」

「お酒飲めないもの」

「じゃあ、オレンジジュース飲みに行く?」

 最上階のバーで優雅に飲むのもいいと思う。でも、妊娠しているから飲めないし、それだけでなく、婚姻届を出して、気持ちも昂り、ドライブもして、身体に少しの疲れもある。それに少し甘えたい気持ちもあった。

「ううん。やめとく。素敵な部屋だから、部屋を堪能する。慎哉さんはさっきまで運転で飲んでないから飲みに行きたい?」

「そうだな。祝杯は部屋でもいいな。ルームサービスでグラスワインくらいは飲むかな」
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