君をひたすら傷つけて
 慎哉さんがルームサービスを頼んでくれている間に、私は窓辺から、眼下に広がる夜景を見つめていた。あまりにも綺麗で感動してしまいそうなほどの光景に私は目を奪われていた。溜息と一緒に零れるのは『綺麗』という言葉だけ。地上にある星は今日も瞬いている。

 窓辺に囚われている私の身体を慎哉さんは後ろから包むように抱き寄せた。身体を包み込む温もりにドキッとして、その優しい温もりに安心もする。私が逞しい腕に手を添えると、少し強く抱き寄せた。

「何をそんなに見ている?」

「夜景が綺麗だと思って。あまりにも綺麗だから、夢かなって思うくらい」

「夢じゃないよ。綺麗だね」

 慎哉さんは私の肩越しに窓からの眺めを見て、それから耳元で囁くような声を出した。甘い声にドキッとしてしまう。今日の慎哉さんはいつも以上に優しいし、言葉の端々に甘さを感じさせた。普通の会話に甘さを感じるのは私がドキドキし過ぎるからだろうか

「夢じゃないけど、綺麗すぎると怖いな」

 慎哉さんは少し強く私の身体を抱き寄せた。溶けてしまいそうな熱さに私は翻弄されそうになる。こんな風に強く抱きしめられるとドキドキが止まらない。

「もう、俺に何も言わずに消えるのはやめてくれ」

「ごめん。あの時は、もう一緒に居られないと思って。妊娠してしまって、堕胎しろって言われたら怖かったし、責任を取るから産んでもいいと言われるのも嫌だった」
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