君をひたすら傷つけて
 好きだったから抱かれたけど、妊娠するとは思わなかった。抱いてくれと迫ったこともあり、自分の中で責任を取らないといけないと思っていた。でも、今はこんな風に優しい腕の中にいる。それが幸せだと思った。

「もしも、あの時に妊娠したことを言われても、今と変わらないよ。雅と結婚しただけだよ。一緒に住みだして、妹だと思い込まないと、傷つけそうで怖かった。大人とはいえ、男だし、兄と思っている大人が男を下心を出してくるのは困るだろう。でも、イタリアから帰ってから、雅が出ていって、堪えたよ。何度も何度も後悔した。
 何で自分の言葉で気持ちを伝えなかったんだろうと。どうして、同情ではなく愛情で抱いたって言わなかったのだろうって」

「私が避けてたから。言うことも出来なかったよね」

「それも堪えた。さすがに海のスタイリストの仕事でリズさんが来た時は凹んだ。でも、反面、リズさんに雅の場所を聞けるとも思った。でも、リズさんは一筋縄ではいかなかったな。で、こんなに雅を取り戻すのに時間が掛かった。今日、婚姻届を提出して、安心しているのはきっと雅ではなくて俺の方だね」

 そんな話をしていると、部屋のチャイムが鳴り、慎哉さんは私の身体を自由にすると、ルームサービスを受取るために廊下の方に歩いて行った。私は一人、自分の身体を抱き寄せ、胸の奥に灯った熱を感じていた。

 好きだと思った。
 そして、愛していると思った。
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