君をひたすら傷つけて
 義哉の言う傷というのは何なのだろうか。この前のお兄さんの話を聞いていて、義哉のことを失うかもしれないと私は知った。離れた方がいいとも言われたし、忘れた方がいいとも言われた。でも、私は離れることも忘れることも出来なくなっていた。

 戻ることも出来ないなら進むしか私には残されてない。もしも義哉が私にくれるものだったら、傷でさえも心に刻み込んでほしいと思う。


「拒否された方が傷つく。義哉がどうしても私を抱けない理由を教えて欲しい」

「なんて言ったらいいんだろうね。雅…。僕は雅が思う以上に雅のことが好きだよ。だから、普通の男と同じように雅を抱きたいと思う。でも、それは難しいんだよ。それが現実なんだ」


「抱きたいと思うなら抱いて欲しいの」


 私を抱きたいと思う気持ちが欠片でもあるなら抱きしめて欲しい。ただ、思いのままに愛されたい。


「抱きたいと思う感情の前に雅を傷つけたくないという気持ちの方が大きい。雅がどのくらい僕のことを知っているか分からないけど、もう僕には時間がない。今でも傍に居るだけで抱きしめたくなる。でも、触れると多分僕は止まれなくなる。だから、この件に関しては聞かなかったことにするのが一番なんだ」


「義哉は何も分かってない」


 私はそんな言葉を残して病室を後にしたのだった。唇を噛みすぎて血の味がする。拒絶された味は血の味だなんて…。胸が痛かった。



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