君をひたすら傷つけて
 空を見上げる時間がなかったのは私だけではなかった。義哉はお兄さんにとっては大事な弟なのだから私よりも苦しい思いをしているのかもしれない。空を見つめて呟く声はよく似ている。義哉よりも少しだけ低く掠れていて、義哉が大人になったらこんな声になるのではないかと想像させた。目を閉じる私はお兄さんに義哉の未来の姿を重ねていた。

 私の中では確かな未来に義哉の姿がある。


「声、似てますね。義哉の方が少しだけ高いけど」

「そうかな?自分では分からないけど、でも、高校生の時の自分とは似てるかもしれない」

「どんな高校生だったのですか?」

「面白みのない高校生だったよ。今思い返してみても何も思い出らしい思い出もないかな」


 聞いていると義哉と話しているように感じるくらい似ている。そんな声に今まで聞けなかったことを聞いてみた。


「聞いてもいいですか?」

「何?急に改まられると怖いな」

「義哉はいつから病気なんですか?」

「かなり前からだよ。でも、私も両親も絶対に義哉は治ると信じていた。そして、今も奇跡が起きて治るんじゃないかと思っている」

「奇跡ですか?」

「ああ。奇跡を願うしかない。今の私に出来ることはそれくらいなんだ」

「そうなんですね」
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