君をひたすら傷つけて
 少し苦しげに私の方をみて笑うお兄さんを見て、それが義哉の現実なんだろうと思った。毎日一緒にいると確かに身体が弱っているというのは感じる。でも、それが存在を消してしまうほどとは思えない。残された時間が短いと言うのも分かっている。

「今でも本当はもう義哉に会わない方がいいと思っているんだよ」

「もう無理ですよ」

「藤堂さんを見ているとなんとなく分かる。自分で決めたことを貫き通すからね」

「お兄さんはそうではないですか?」

「優柔不断という言葉は自分のためにあるのではないかと思うばかりだ。毎日、迷うことばかりでね」

 お兄さんは自信満々でいつも自分の信念のもとで動いてると思っていた。でも、本人は違うという。


「そんなことはないと思いますよ。そろそろ帰ります」

「あんまり遅くなると家の人が心配すると思うよ。車で送る」

「送って貰っていいんですか?」

「勿論だよ。こんな遅くなった時間に女の子を一人で帰らせたりするのは好きじゃない。それに義哉もその方が喜ぶと思う」

「じゃあ、甘えます」


 一緒に公園を出て病院の駐車場に戻るとお兄さんは後部座席のドアを開けてくれた。

「助手席に乗せると義哉が妬くから」

「だといいんですけど、義哉が妬くとは思えませんが」

「間違いなく妬く」

 私は開けて貰った後部座席に乗り込むとお兄さんも運転席に座りバックミラー越しに私を見つめた。
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