君をひたすら傷つけて
 最初は怖いと思ったけど、一緒の時間を過ごすとお兄さんの優しさを感じる。最初に怖いと思ったのはお兄さんが義哉のことを心から心配しているからだと今なら分かる。優しいから厳しいことを言うのだということを私は今になって知った。

「義哉から大体の住所は聞いているけど、近くに行ったら教えてくれる?」

「駅まででいいですよ」

 まだ、そんなに遅い時間でもないのに送って貰うだけでも申し訳ないのに、家までとなると重ねて申し訳ない。

「家の前とは言わないけど近くまでは送る。そうしないと心配だ」

「ありがとうございます」

「その方がいいから」


 お兄さんはそういうと車を動かしだしたのだった。狭い車の中でも、運転席と後部座席には距離があり、この距離が心地いいと思う。男の人と二人なのに緊張しないのは自分の心を曝け出すように泣いたからかもしれない。考えてみれば赤面してしまいそうなくらいの八つ当たりを真正面から受け止めてくれた。


 同じ痛みを心に持つ私とお兄さんはある意味分かり合えるのだろう。


「藤堂さん。義哉のこと大事にしてくれてありがとう。義哉が笑うことが増えて毎日が楽しそうなんだ」

「私も楽しいです。今日は言い合いになったけど」

「それだけ藤堂さんが大事なんだよ」


 そう言ったお兄さんはバックミラー越しにニッコリと笑った。
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