君をひたすら傷つけて

恋の痛み

 朝から私は溜め息ばかりだった。そろそろ準備しないと義哉の病室に行く時間がない。いつもよりも少し遅く家を出たにも拘わらず、私は病院のロビーでも中々動くことが出来ずに廊下にあるベンチに座っていた。病院の白い壁に映える緑の観葉植物の影からは時計が微かに見える。

 昨日の今日で顔を合わせにくいと言うのが本音だった。でも、今日行かないと明日はもっと行きにくくなる。それも分かるから帰ることが出来ずにいた。

 塾に行く前に私が義哉の病室で過ごせる時間は一時間程度しかないのに私は動けない。病室に行かずに塾に行くという選択肢は出来そうもないのに、足は動かない。会いたいと思う気持ちとまた拒絶されたらどうしようという気持ちが入り混じっていた。


 義哉はどうしているだろ。

 少しは私が来ないことを心配しているかな。

 心配なんかさせたくないし、大好きなのに足が動かない。

 
 ベンチに座ったまま二十分が過ぎ、塾に行くまでの残り時間が短くなってきた。

 きっと行かなかった方が後悔する。


 やっとの思いで立ち上がると足を止め、その度に自分に叱咤激励する。やっと来ることが出来たドアの前でまた躊躇してしまった。ドアをノックすると中から義哉の柔らかな声が聞こえ、私はゆっくりとドアを開けた。

 私の視線の先には義哉がいて、いつもは横になっていることが多いのに、今日は座った状態で私を見つめている。私の姿を捕えるとニッコリと笑った。
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