君をひたすら傷つけて
 病院の中庭にはテラコッタのタイルが床には敷き詰められ、真ん中には寄せ植えの鉢がいくつも並び、花がいっぱい植えられている。そして、患者さんがゆっくりできるようにとベンチがいくつも並んでいる。思ったよりも広い場所で、私は吹き抜けの天井から降り注ぐ太陽の光を感じた。こんな寒い時期なのに、ここは暖房が入って温かいし、珍しく澄み渡った空は青く突き抜けている。

 思いが通じたからかもしれないけど歩くときは私の手は義哉の手に握られていた。

「凄く素敵な場所ね。花がこんなに咲いてて綺麗」

「座ろうか」

「うん」

 義哉は私をベンチに座らせると、少し先にある自動販売機を見つめた。

「缶で悪いけど何がいい?」

「ココアがいいかな。私が買ってくるよ」

「ううん。たまには彼氏らしいことをさせて」


 ポケットから財布を取り出すと、自動販売機に歩いて行き買って、義哉はそれを持って私の座っているベンチに真っ直ぐに歩いてきた。そして、私にココアを渡すと横に座った。手には私と同じココアの缶があった。

「義哉もココアがいいの?」

「雅と一緒がいい。ココアも好きなんだ」

「ありがとう。いただきます」


 ベンチに並んでいるだけでも幸せなのに、ココアの温かさが一段と身体に染みる。こんなに美味しいココアは初めてだった。甘いだけの飲み物だと思っていたけど、心を優しく包む甘さを感じている。私と同じものを飲む義哉はココアの入った缶に口を付けると、少し目を見開いた。
< 128 / 1,105 >

この作品をシェア

pagetop