君をひたすら傷つけて
 私が望むのはこんな小さな幸せだった。義哉がいて、私がいて、ただそれだけでよかった。ほんのりと感じる義哉の身体の温かさが腕から伝わってくる。私がココアを飲んでいると、私の肩に置いてあった指先が少し動き、私の髪を梳いた。真っ直ぐに伸ばした髪はスルスルと義哉の指を滑り落ちていく。

 顔を上げると義哉の少し細めた瞳に私の瞳が絡んだ。視線が絡むと眩そうに目を細める義哉を見て、綺麗な人だと思った。

「何しているの?」

「雅の髪って綺麗だよね。サラサラしていて指をスルスル通り抜ける。本当に綺麗だ」

 義哉はそう言いながらも飽きることなく私の髪に指を通す。高校に通っている間は結んでいたけど普段はいつも下していた。塾に行って邪魔になる時は結ぶけどそれ以外は下ろしている。特に義哉に会うようになってからはブローだけは頑張ってしていた。

 少しでも可愛いと思われたいという恋心だった。

「ストレートって子どもっぽいから大学に入ったらパーマを掛けようかと思っているの。もちろん大学に入ってからでないと何も出来ないけどね」

「雅の髪は綺麗だから勿体ない気もするけど、ふわふわの髪をした雅も可愛いかもしれないね。楽しみだね。あと、雅に大事な話があるんだ。でも、これは雅次第なんだけど」

 私の髪に指を通しながら、視線だけは私から外し、少しだけ下を向く義哉を見てドキッとした。

 よくない話なのだろうか?
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