君をひたすら傷つけて
 義哉の静かな言葉には心が熱くなるくらいの思いが詰まっている気がした。

「いいの?本当にいいの?」

「大切な雅と一緒に卒業旅行に行きたいって望みを叶えて欲しい。ただ、雅は本当に僕と一緒でいいか考えてから返事して。無理はしないでいいし、それにさせたくもない」

 私は嬉しさのあまり義哉に抱きついた。考える必要もないけど、もしも真剣に考えたとして、きっと気持ちは変わらない。義哉に残された時間の中で私は誰よりも傍に行きたかった。

「楽しみにしてる。でも、どうして私と卒業旅行に連れて行ってくれる気になったの?」

「高校最後の思い出が欲しいし、雅の事が好きだから」

「楽しみにしている。受験が終わったら一緒に卒業旅行に連れて行って」

「僕も楽しみだよ。どこに行くかは二人で決めよう」

 義哉はそっと私の身体を抱き寄せた。義哉の温もりを感じていると、このまま病気が治るのではないかと錯覚してしまいそうになる。私の前にいる義哉は明るく笑っている。顔色も前に比べたらいいし、腕に籠る力も強かった。

 二次試験を控えた今、まだ春は遠いのに風邪を遮られるようにつくられた中庭は差し込む陽の光で眩い。奇跡は起こるのではないかと思わずにはいられなかった。


 ゆっくりと落とされる唇の甘さはココアとは違うものだった。
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