君をひたすら傷つけて
 お守りの中でも女の子が喜びそうなものを選んでくれたのが分かる。綺麗な花の刺繍は女の子が好きそうなものだったし、あのスーツを着て、厳しそうな顔をしたお兄さんがこれを買ったと思うと少し可笑しい。でも、嬉しかった。義哉の気持ちもお兄さんの気持ちも…。

「ありがとう。頑張るね。お兄さんにもお礼言っておいてくれる?私も今度会ったら言うから」


「雅なら大丈夫。頑張って。兄さんには僕から言っておくから」


 時計を見ると塾に行かないといけない時間になっていた。私はバッグにテキストを片付け、いつものようにベッドからスルリと降りると、急に私の腰に義哉の腕が回り、そして、ギュッと自分の方に引き寄せた。

「雅。ちょっとだけこうしていて」

 義哉は私の身体を抱き寄せ、包み込むように自分の胸に入れた。華奢な義哉の身体だけど、それでも女の子とは違う男の人の人の身体。急にこんな風に抱き寄せられるとドキドキしてしまう。今までこんな風に帰り際に義哉が抱き寄せたことはなかった。

「急にどうしたの?」

「うん。雅を抱きしめたくなっただけ。そして、明日の試験で雅が思う存分頑張れますように」

 私ももっと近づきたくてそっと持っていたバッグから手を放すと義哉の背中に腕を回した。一瞬、義哉の身体はビクッと微かに跳ねて、それからもっと強く私を抱きしめた。

「頑張って。雅」

 その言葉に応えようとすると、義哉の唇に塞がれた。そして、キスの合間に少しだけ唇を離した隙間から吐息と共に甘い声が漏れた。

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