君をひたすら傷つけて
 大学の試験会場に向かいながら私は義哉のことを思っていた。出会ってからそんなに時間は経ってないのに、私の心は義哉で占められていた。ただひたすら好きという気持ちに包まれるだけ。こんな恋を教えてくれた義哉に感謝する。


「会いたいな。試験が終わるまで我慢」


 甘えた言葉を呟きながら駅までの道を急ぐ。今日の試験が終わったら、私は義哉の病院に行き『二人だけの卒業旅行』の相談をしようと思っていた。どこに行くかはまだ決めてないけど二人で考えればいい。どこか小さなホテルか旅館で一緒に時間を過ごせればそれでいいから、ネットで予約をすればすぐにでも出かけられる。


 それが頑張った私へのご褒美だと思う。義哉の身体のことを考えるとそんなに遠くは行けないだろうけど二人だけで過ごす時間が楽しみで仕方ない。

 義哉は私が試験で頑張れることを一番喜んでくれる。真剣に数学を教えてくれた思いに私は応えないといけなかった。未来を描くことの出来ないかもしれない義哉にとって私の受験はどんな風に写るのだろう。昨日の義哉は凄く体調も良さそうだった。いつも以上に笑っていたし、苦しそうな顔も見せなかった。

 義哉の病気は徐々に良くなっている気がした。二か月と言われていた義哉の身体に奇跡は起きるかもしれないと私は本気で思っている。そして、一緒に未来を歩くために義哉に愛されるに相応しい人間になりたいと思う。

『義哉。頑張って来るね』

 私は大事な一歩を踏み出した。
< 139 / 1,105 >

この作品をシェア

pagetop