君をひたすら傷つけて
 二次試験の会場である大学の最寄の駅にはたくさんの人が溢れていた。駅から大学までの道をたくさんの受験生が埋め尽くす。このたくさんの人の中で合格して大学生になれるのは一部の人だけ。私はその一部の中に入るつもりだった。今からの私がやりたいことをやるために大学に行く。

『義哉、頑張って来るよ』

 私が試験会場の教室に入ると、周りの空気に圧倒された。真剣という雰囲気だけがあって、急に緊張してきた。

『雅なら大丈夫』

 昨日の義哉の言葉が頭の中で繰り返し、映像が流れてくる。大好きな人の気持ちに支えられ、私は教室に入り、ポケットの中のお守りをキュッと握った。

 試験は時間通りに始まった。

 一時間目は数学だった。

 まるで義哉が守ってくれているのかもしれないと思ったのは、昨日義哉に教えて貰った問題に酷似したものが並んでいるからだった。勿論、過去問題を問いているのだから、似たような問題はあるだろう。それにしても数字が違うだけでそれ以外はほぼ一緒だった。

 ゆっくりと丁寧に教えて貰ったから解き方は分かっている。スラスラと数字や記号が溢れてきて、義哉と出会う前の私だったらこの問題を解くのは厳しかったかもしれないけど、毎日数学の問題を解き続けた甲斐はあった。

 一時間目が終わった頃には私に仄かな時間が芽生えていた。一番苦手な数学がスムーズに解けたことは精神的にも大きかったと思う。その後の教科も自分の持っている力が全部出せたと思う。これで落ちても仕方ないと思うくらいに出来た。

 悔いはなかった。
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