君をひたすら傷つけて
 全部の試験が終わったのは午後の三時を少し過ぎた頃だった。私はホッと肩の力が抜ける気がしたが、ここでゆっくりするつもりはなかった。試験が終わった今、私が行く場所は義哉の待っている病室だけだった。試験官のこれからのことの説明が終わると私は急いで教室を出た。


 今すぐに義哉に会って、今日の受験の事を話したかった。一時間目の数学で義哉と一緒に勉強した問題がいっぱい出て、何回か見直したから間違いはないと思う。頑張って教えて貰った数学がよく出来たと…その後も今まで以上に出来たと。

 早く義哉に話したかった。

 大学の正門は試験が終わった人で溢れていた。その人波の中を駅まで流されるように歩いていた私の腕がいきなり掴まれた。私の腕には骨ばった男の人の手に掴まれていて、腕を辿っていくとそこにはお兄さんの姿があった。


「ゴメン。驚かせたね。何回か読んだけど、藤堂さんは気付かなかったから。義哉が会いたがっているから車で迎えに来たんだよ。これから少しだけ時間あるかな?」

「ありがとうございます。あの。助かります。義哉の病室に行くつもりだったけど、駅が混んでいるから何時の電車に乗れるかなって思っていたので」


 私も自分の家に帰る前に義哉の病室に行くつもりだった。駅はきっと混んでいるからお兄さんが迎えに来てくれたのは助かる。私は少しでも早く義哉に会いたかった。


「先に家に連絡したら?親御さんも心配していると思うよ」

「さっき、大学を出てすぐに連絡しました。今日は帰りが遅くなるって言ってます」


「それなら大丈夫だね。さ、少し先の駐車場に車を置いているから行こうか」

「はい」
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