君をひたすら傷つけて
 大学から少し離れた場所にある駐車場には何度か乗せて貰ったことのあるお兄さんの車が停まっていた。車に乗り込むとお兄さんはフッと息を吐いてから、車を動かした。

「試験はどうだった?義哉がずっと気にしていたんだ」

「自分なりに頑張りました。義哉に教えて貰った問題が出たし、一時間目の数学がスムーズだったから、後は緊張せずに試験に臨めました」

「そうか。それならよかった」

「大学では勉強もだけど、いっぱい楽しんだ方がいいよ」

「お兄さんがそんなことを言うなんて意外です」

「そうかな?自分が大学の時は勉強ばかりであまり記憶もないんだ。だから、藤堂さんは楽しんでほしいと思うよ。たくさんの友達を作ってね」

「勉強ばかりで後悔しているのですか?」

「全く。でも、藤堂さんには勉強以外も楽しんでほしいと思うだけだよ」


 いつも無駄なことを殆ど話さないお兄さんが今日は色々な話をしてくれる。前に義哉から聞いたことがある。お兄さんは好きだったことを仕事にせずに、時間の融通が利きやすい今の仕事を選んだのだと。それは自分の病気のことがあり、将来に渡ってお金が必要だったからだと。

「友達も作っていっぱい楽しみますね」

「その方がいい」


 静かに車の中に流れる洋楽を聞きながら、気持ちは義哉に向かっていた。
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