君をひたすら傷つけて
 急に腕を掴まれて吃驚したけど、私が立ち止まるとレンジ先輩はすぐに腕を放してくれた。私を見つめている表情は少し酔ってはいるけど怖さはなかった。

「俺らは皆でクラブに行こうって話になってる。雅ちゃんも一緒に行こうよ」

「ありがとうございます。でも、今日はもう帰ります」

「そんなこと言わずにさ。皆と一緒に行くのが嫌なら二人で飲みなおそう。しずかを誘ってもいいけど」

 瀬戸先輩は彼の家に行くと言っていた。そんな中、呼び止める訳にも行かないし、それにレンジ先輩と一緒に飲むのなんて考えられない。私には義哉がいる。


「ごめんなさい。付き合っている人がいるんです」

 
「また。嘘ばっかり。それにもしその彼氏が本当にいるならここに呼んでみてよ」


 呼んで来てくれるなら義哉に会いたい。でも、義哉は二度と会えない場所にいる。私は自分の掘った穴に落ちたも同然だった。私の携帯に連絡先の入っている人で、私が連絡出来るのはお兄ちゃんしか居なかった。それに仕事の忙しいお兄ちゃんが来てくれるわけない。

 それでも電話してしまった。

 電話をする私をレンジ先輩見ている。
 
 助けてくれるかもしれない瀬戸先輩は既にもう傍には居なくなっていた。
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