君をひたすら傷つけて
 耳に届く無機質な呼び出し音が耳に届き、数回のコールを繰り返す。そして、もうダメだと思って切ろうとした瞬間だった。

「雅。どうしたこんな時間に」

 私の耳に届いたのはお兄ちゃんの優しい声だった。電話越しに聞こえるお兄ちゃんの周りがザワザワしているからマンションの部屋にいるわけでは無いようで仕事の可能性が大きい。でも、今更、電話を切るわけにもいかない。

「迎えに来てほしいの。無理なら自分で帰るから」

 断って貰っていい。会話している雰囲気さえレンジ先輩は見ればきっと諦めてくれる。そして、少しの沈黙の後、私を安心させる声が届いた。


「分かった。今からすぐ行く。どこにいるんだ?」

「大学の近くの店で飲んでいたけど、もう終わったから帰ろうと思って、で、迎えに来て欲しくて場所は……」

 私が辺りを見回して場所を言うとお兄ちゃんはフッと息を吐いたのが聞こえた。


「そこならすぐに行ける。今、近くで仕事をしているから抜けてくる。十分くらい待てる?」

「うん」

「じゃ、少し待ってて」

 電話の後ろから聞こえた雰囲気から仕事の可能性が高いとは思ったけど、まさかこの近くで仕事をしているとは思わなかった。説明をする前に電話は切れてしまった。いきなり呼びだされたお兄ちゃんはどう思うだろう。苦し紛れに言ってしまった『付き合っている』がこんな形で帰ってきてしまった。
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