君をひたすら傷つけて
 義哉に少しのお別れを告げた次の日の朝。私はいつも通りの朝を迎えていた。フランスに出発する朝だからもう少し緊張で眠れないとか、何かあるかと思っていたけど、呆気ないほどのいつも通りだった。

 ただ、いつもは仕事が忙しいお父さんもお母さんもお兄ちゃんも弟の涼太もテーブルに付いていた。留学を決めてから家族でレストランで食事もしたのにと思いつつも嬉しかった。

「おはよう。雅。顔を洗ったら朝ご飯にするから急いで」

「おはよう。あれ、お父さんは会社は大丈夫なの?」

「今日は時差出勤」

 元気なお母さんに無口だけど優しいお父さんは新聞に目を通しながら、私をチラッとみてからまた新聞に視線を戻す。

「雅。フランスに行って何かあったらすぐに連絡してこいよ」

「ありがと。お兄ちゃん」

「ねーちゃん。お土産楽しみにしてるから」

「お金が余ればね」

 こんな日常もしばらく味わえないかと思うと寂しい。今日はお兄ちゃんも弟の涼太もみんな揃っていて…。嬉しいやら恥ずかしいやら。気持ちが揺れていた。

「雅。頑張っておいで。フランスに行ったら楽しいことがいっぱいあるから」

「うん。頑張ってくる」

 頑張ってこようと思った。
 自分の糧にしてこれるようにしたいと思った。

 私は強くなりたい。自分の足で歩いていけるように…。
< 212 / 1,105 >

この作品をシェア

pagetop