君をひたすら傷つけて
 私を空港まで迎えに来てくれる人は日本人だと知っていたけど、それでも飛行機の中で何度も練習してきたフランス語の挨拶も吹っ飛んでしまった。三人で一緒に住むと聞いていたけど、もう一人のルームメイトがこんなに綺麗で迫力に溢れる人とは思わなかった。

 目が釘付けになるというのはこういうことを言うのだろう。私は目の前で微笑むリズさんから目を離すことが出来なかった。圧倒的な美は目を引きつけ、言葉は無にしてしまう。

『初めまして。藤堂雅です。迎えに来てくれて嬉しいです』


 発音が微妙だったかもしれないけど、フランス語で発音してみると、私の気持ちが通じたのかリズさんはニッコリと笑ってくれた。そして、フワッと抱き寄せてくれ、耳元で囁いた。

「綺麗なフランス語の発音だけど緊張しないでいいわよ。私、日本語は話せるし、英語も大丈夫。一緒に生活するのだから気楽に行きましょ。日常会話は日本語でいいし、もちろん英語でもフランス語でもいいわ」


「はい。ありがとうございます。でも、出来ればフランス語を学びに来てますので」

「分かったわ。雅は真面目なのね」

「いえ、そういうわけではないのですが」

「いいのよ。仲良くしましょう。今日はアパルトマンで寝ているけど、一緒に迎えに来るはずだったまりえは本当にいい子よ。だから、雅のフランスでの生活は楽しいものになるから安心していいわ。さ、まりえが待っているから帰りましょ」
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