君をひたすら傷つけて
 楽しくなるといいと思う。家を離れたのは初めてで一人暮らしも初めて。で、その初めてがフランスのパリというのだから驚いてしまう。でも、迎えに来てくれたリズさんは明るいし、『楽しいものになる』という言葉は断言じみている。フランスに着いたばかりの私はリズさんにホッとしていた。『帰りましょ』という言葉が私を受け入れてくれているのを感じさせた。

 アパルトマンまでは地下鉄で行き、駅から少し歩いた場所に私がこれから過ごす場所はあった。いくつもの古びた建物の一角にその建物はあった。経年した壁は建物の古さを感じさせた。少し煤けたような汚れもあり、本で見たような華美な感じではなかった。

 質素とか地味とか言う言葉は似あうそのアパルトマンはリズさんには違和感しかなかった。ここに本当に住んでいるのかと建物とリズさんを見比べてしまう。

「さ、ここよ。このアパルトマンは三階建てで、私たちが住む部屋は三階にあるわ」

「そうなんですね」

「ちょっと古いけど、住むには十分な場所よ」

 私たちの住む部屋は三階にあり、それぞれの個室と一緒に過ごすリビングとキッチンが供えられているはずだった。写真は無かったけど大学が斡旋しているから、治安は保障されているはず。それに私はキャンセルした生徒の代わりに入ったのだから選択の余地はなかった。


 廊下も薄暗いし壁は灰色。上の方から降り注ぐ光が階段を照らしていた。夜になればランプが着くのかもしれないけど夕方なので一番暗い時間かもしれないと思った。
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