君をひたすら傷つけて
「今日の夕ご飯はどうする?雅の初めてのフランスでの夜だから素敵な時間にしたいわよね。雅は何が好き?」

「嫌いなものはないです」

 そう聞かれて、そろそろ夕ご飯の時間だと気付いた。飛行機の中の機内食を食べてから私は何も食べてないのでお腹は空いている。でも、興奮しているからか、お腹が空いているとは感じない。

「素敵な店があるの。雅もそこなら気に入ると思うわ。そこに行きましょ」

「リズ。今日はここで食べて、ビストロは今度にしましょ」

 リズさんは美味しいビストロがあるからそこに行こうと言う。そして、まりえさんは私の体調を心配して、今日はここで食べて、外での食事は後日にしようと言ってくる。それにさっきまで体調が悪かったまりえさんを連れ出すのは申し訳ない気がする。


 アパルトマンでも外のビストロでも二人とも私を歓迎してくれる気持ちは伝わってくる。どうしたらいいのか迷っているとフッとまりえさんが笑った。


 正直、どちらでもよかった。でも、どちらかというと疲れているからというよりは誰にも邪魔されずにこの二人と一緒に食事をしたかった。そして、まりえさんに無理もさせたくなかった。


「ありがとうございます。今日はこちらで食べて、ビストロは今度でもいいですか?何か作るなら私、手伝います」

 私がそういうとリズさんはニッコリと笑う。私はまりえさんの意見を取ったのにリズさんの方がにこやかに微笑んでいる。そんなリズさんを見ながらまりえさんは笑いを噛み殺しているように見えた。


 何がそんなにおかしいのだろう?
< 228 / 1,105 >

この作品をシェア

pagetop