君をひたすら傷つけて
「リズ。雅さんがここで食べたいと言っているから」

「分かったわ。今からが私の腕の見せ所ね。雅はまりえを一緒にリビングで話しながら待ってて、簡単なものしか出来ないけどすぐに作ってくるから」

 そう言うと嬉々としてリズさんはキッチンの中に入っていく。そんな後ろ姿を見ながらまりえさんはクスクス笑いだしていた。最初は我慢しているように見えたけど、それも無駄な努力だったらしく、笑いが零れていく。

 そして、私だけに聞こえるように囁いたのだった。


「もしも、今日外で食べるなら、リズのお気に入りのビストロ。ここで食べるならリズの手料理だったのよ。リズはね。本当はどっちでもよかったの。雅を歓迎したかっただけだし。最初に決まっていた子が留学が取りやめになって寂しいわねって二人で話していたの。でも、雅が来てくれたので私もリズも嬉しいの。リズも素直に自分で作ってご馳走したいって言いたいのに、無駄にひねくれたことをするからね。

 可笑しくって。雅に食べさせるつもりで冷蔵庫の中は食材でいっぱいなの」

「そうなんですか?」

「そうなの。自分で作るって言えばいいのに」
 
 リズさんの気持ちもリズさんが夕ご飯の用意していることを知っていて部屋で食べようというまりえさんの優しさも嬉しかった。

「もし、私がビストロって言ったら申し訳なかったんですね」
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