君をひたすら傷つけて
 選択肢は二つだったけど、それでもリズさんが作ってくれる方が嬉しい。最初から、ビストロか手料理かと聞かれたら迷わず手料理を選んでいた。少しオブラートに包まれた選択肢は私の希望通りに選ばれた。

「そんなことないわ。ビストロもリズのお気に入りで、ワインがとても美味しいの。だからそっちならそっちで楽しんだと思うわ。でも、リズの料理は本当に美味しいから期待していいわよ」

「そうなんですか?」

「ええ。だって、リズは何でも出来る素敵な人だから。ねえ、日本の事を少し話して。たった一か月くらいだけど、何も変わってないよね」

「大丈夫ですよ。あんまり変わってないです」

 まりえさんとつい最近の日本のことを話していると、しばらく経ってからリズさんがニコニコ笑いながら、キッチンから出てくるとテーブルの上に次々と料理を並べていく。どれもこれも美味しそうでプロの作っているものではないかと思うくらいに盛り付けが綺麗だった。色彩感あふれる料理の数々に感嘆の溜め息が漏れる。レストランも吃驚だった。

「凄いです。これ、リズさんが?」

「ええ。趣味の域だけど」

「でも、美味しいわ。リズの料理は」


 料理が出てくるたびにまりえさんが教えてくれる。どれもこれもリズの得意料理で、それの中でも日本人の私の口に合うようなものが並べられているらしい。一見してフランス料理なのに、味があっさりしていてとっても美味しい。ブイヨンの味もあっさりと舌の上でサラリと流れる美味しさだった。
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