君をひたすら傷つけて
 まりえさんの体調不良も徐々に治り、私とまりえさんとリズさんとの一緒の生活は穏やかに始まっていた。いつしかまりえ、リズと呼ぶようになり、三人で始めた生活は楽しいものだった。語学留学しているまりえとは毎日一緒に学校に通っている。まりえもフランス語習得のために留学しているけど、私よりもたった一か月早くフランスに来ただけなのに簡単な言葉だけでなくネイティブなフランス語も習得していた。

「まりえは綺麗な発音よね」

「毎日、リズと一緒にいるからかも。リズは日本語もだけどフランス語、イタリア語、英語は正統派のクイーンイングリッシュだし、ラテン語も少しは話せるわ」

「凄い」

「仕事柄だとは思うけど、どれもが綺麗な発音というのはリズの努力の結晶よね。微かな訛りが出そうなのに、とっても先生のような発音だから、雅もそのうち話せるようになるわ。私もここに来るまではさっぱりだったの」

 フランスに来るまではフランス語を話せなかったと言っていたのにこんなに短い間に習得したということはリズの発音だけではなく、才媛だからなのかもしれない。

「私も頑張らないと」

「頑張らなくても肩の力を抜いていれば話せるようになるって」

 そのまりえの言葉が嘘ではなかったと感じたのは一か月後くらいだった。不意にリビングでリズと話していて、あ、私の発音も随分綺麗になったかもって思った。最初は日本語で話していたけど、次第にフランス語で話しことも増えている。そして、今では日常生活は困らないくらいにはなっていた。留学している効果は十分に上がっていると思う。
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