君をひたすら傷つけて

穏やかな時間

 リズはニッコリと笑って、私をふわっと抱きしめた。

「本当に助かる」

「期待しないでよ」

「分かってる。あんまり時間がないから、部屋から荷物を運ぶのを手伝ってくれる?下にもう少しで車が来るから」

「うん」

 私はリズの部屋の端に纏めてあった。その荷物は思ったよりも膨大でリズがアシスタントを欲しがった理由も分かった。荷物を運ぶくらいなら私にも出来る。何度も行き来して荷物を車に運び込んで後部座席に乗り込んだ私は仕事の大半は終わったと思った。後は帰りに片付けて荷物を運ぶくらいだろう。

「雅。今日はモデルの着付けとか化粧も仕上げ以外はお願いすると思うから、会場に着いたら、先に付いているスタッフの指示に従ってね。私は先にデザイナーに挨拶をしないといけないの。それが終わったら雅の所にくるから。まずは荷物の整理。それからはその場の雰囲気で」

「荷物運びしか出来ない。着付けとか化粧とか無理よ」

「大丈夫。みんな最初は素人だから」

 別に私はスタイリストになるつもりもなければ、リズのアシスタントになるつもりもない。単にフランス語の語学留学でしかない。

「そろそろ着くわ」 

 リズの勢いに押され、私が連れてこられた先は眩すぎる場所で見た瞬間帰りたくなった。フランスという国は古く歴史のある建物が多い。それを目の当たりにすると逃げたくなった。今回のコレクションも行われる由緒あるお屋敷と思われるその場所は独特の雰囲気を醸しだし圧倒的な存在感を示していた。
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