君をひたすら傷つけて
 リズは彼に向かいニッコリと笑った。そして、大きく息を吐くと『Oui(はい)』とだけ答えた。そして、私の方を見ると安心させるかのようににこやかに微笑んだ。

「雅。どうも交通の関係でスタイリストとメイクアップアーティストが遅れているから、コレクションを時間通りに進めるために私がその人の担当も引き受けることになったわ。だから、雅にも頑張って貰うことになる」

「大丈夫なの?」

「やるしかないのよ」

 リズは微笑みながら何でもないという風に言うけどここにいるアシスタントは男の人が一人と私だけ。どう考えても人数不足だと思う。リズはフリーのスタイリストでこの男の人と二人で活動している。彼もまたフリーのスタイリストだった。二人はいい。私は何も出来ない素人。

「今からの行動を説明するわ。まず、彼は私と一緒に活動することの多い、スタイリストで名前はアークス。何度か私の部屋に来ているから面識はあると思うけど。で、こちらが私のルームメイトの雅。今日はアシスタントとして手伝ってくれることになってるわ」

 リズに紹介されたアークスは私を見つめ、軽く手を差し出した。

「よろしく。雅。きちんと自己紹介したいところだけどそれは後日で。名前だけ分かればどうにかなるな。困ったことがあったらすぐに言って。今日は本当にヤバいから」

「はい。アークスさん」

「自己紹介は後で。さ、仕事を始めましょ」

 私は出来ることだけする。そう腹を括るしかなかった。
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