君をひたすら傷つけて
 それから三人でコレクションの進行表を見ながらリズが手早く説明をしだした。一人のスタイリストが来れなくなった分、リズは二人分の仕事をしないといけない。モデルの人数が増えるとなると作業は二倍になる。それでなくても最後のマリエもある。

「来れなくなったスタイリストの分も入って来るから忙しいとは思うけど大丈夫。特に雅は慣れてないから大変かもしれないけど、フォローはするから。私かアークスがいるから大丈夫よ」

「はい」

 私はいつもなら軽く『うん』と応えているのに、今日は『はい』と応えてしまう。リズの真剣な表情はいつもアパルトマンで穏やかでゆったりとリズとは違い、触ると切れそうなほどの鋭さを併せ持つ。これがスタイリストとしてのリズなのだろう。

「さ、頑張りましょ。アークスはモデルを呼んできて。雅はドレッサーの準備。化粧ボックスを並べて、ヘアアイロンには電源を入れて。衣装は番号を確認して持って来て、すぐに着れるようにボタンとか外して」

「はい」

 コレクションが始まるまで時間はない。私はリズの支持の通りにドレッサーの準備を終わらせて衣装を取りに行く。そして、リズがヘアメイクを始める。リズの神業的な技術が終われば、順次に私が衣装の着付けを手伝う。細かなボタンや装飾を壊さないように丁寧に扱いながらも素早さを要求された。

 数名のモデルの着付けが終わった時点で音楽が鳴り響き、ステージの向こうではコレクションが始まった。でも、スタイリストが忙しくなるのはこれからだった。
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