君をひたすら傷つけて

リズの提案

 時間の流れは早くて、私が日本からフランスのパリに語学留学に来てから半年の月日が流れていた。語学学校の方は順調で今ではフランス語での専門用語ばかりの会話はまだ駄目だけど普段の生活は困らないようになっている。リズの影響でフランス語だけでなく英語もかなり上達したと思う。

 それはバイトの影響だった。

 リズはあのコレクションからスタッフの人数に余裕がある時は私をアシスタントとして使ってくれる。その理由は分からないけど、私はバイト代を生活費の足しに出来るようになっていた。何度もコレクションのアシスタントをしているうちに私はフランス語だけでなく、英語にイタリア語までも会話程度なら出来るようになっていた。

 習うよりも慣れろと言うことを身を持って知ったわけだけど、苦労がなかったとは言えない。会話の中に分かる単語を探し、なんとなく何を言っているかを想像する。英語の辞書なんか引きながらなんかじゃ仕事にならないから分からない時はリズに聞くけどリズがいない時は思いっきりボディランゲージでどうにかやりすごした。

 身振り手振りもそれなりに伝わるもの。

 バイト代でお小遣いには困らなくなったけど目が肥えてきたのか欲しいものが増えてくる。パリにはスマートな物腰の女性が多く、シンプルな服をお洒落に着こなす。私もリズの影響で流行には敏感になっていき、あまり高いものは買うことが出来ないけど、それなりにお洒落を楽しむくらいの余裕は出来ていた。


 ある日のことだった。

 玄関先に大きな音がして、何があったのかとまりえと顔を見合しているとリビングにリズが入ってきた。

「どうしたの?凄い音がしたけど」

「仕事での衣装を持ってきた。撮影の時に使うつもりだったけど、どうも気に入らなくて」
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