君をひたすら傷つけて
「いいわよ。でも食事が終わってからね」

 まりえは優しい。リズが意見を聞きたいと言う時はまりえがその衣装を着るということだった。実際に着てみて、腕の周りは苦しくないかとかデコルテの辺りは空き過ぎてないかとか、小物はどれがいいかとか。回れと言われれば周り、座れと言われたら座る。

 トルソーでは分からない細かな雰囲気を実際に動くマネキンを使ってリズは小物やアクセサリー、髪型や化粧まで試していく。実際にまりえのスタイルはいい。身長も私よりも高いしウエストも驚くほど細い。そんなまりえだからこそモデルサイズの服が着れる。

 私はリビングで繰り広げられるファッションショーのアシスタントをする。

 まりえはどんな服を出されても文句も言わずに身に付けて行く。撮影に使う服は季節が逆なことが多い。まだ寒い時期なのにリズの持ってくる服は夏物だったりする。

 どう考えても寒い。

 私はまりえが寒くないように暖房を思いっきり効かせた。かなり暑いリビングで繰り返される仕事は過酷でリズは動きながら額に汗を滲ませていた。リズと一緒に何度もコレクションを体験する毎にずっとこの時間が続けばいいとさえ思うほど私はリズの仕事に魅せられていた。


「雅。そこのネックレスを取って」

「このネックレスの色とドレスは思ったよりもいいわ。うん。これで行く」

 リズの中でパチッと何かのピースが嵌ったのは夜も更けてからだった。リビングのソファにはいくつものドレスが無造作に置かれ、テーブルにはアクセサリーが並ぶ。長い時間拘束されたというのにまりえは文句一つ言わずに何度も何度も着替えていて、リズが満足したのを確認するとニッコリと笑った。

「じゃ、少し疲れたから先にシャワーを浴びて寝てもいい?」

「勿論よ。いつもありがとう。まりえのおかげでイメージが固まった」





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