君をひたすら傷つけて
「雅と一緒に仕事をしてなかったらこんなことを言わないわ。真面目なだけでなくセンスもいい。だから勿体ないと思ったの。私も無茶なことを言っていると思っているけど、新しい世界で頑張ってみない?私が全面的にバックアップする」

 新しい世界。まさにその通りだと思う。普通の語学留学の大学生が一流のスタイリストと一緒に住むようになったルームシェアをしているのがリズだからこそのことで普通ならありえないことだった。それでも、これは夢でも何でもなくて今の私の降り注ぐ現実だった。

 日本に帰りたいと思う気持ちもある。でも、ファッションの仕事に楽しさを感じてもいる。

「ちょっと考えてみるけど、今は吃驚しすぎて」

「そうね。大学のこともあるし、ご両親と相談もしないといけないわね。でも私は雅がここに残ってくれるのなら最大限雅の力になる。これだけは忘れないで。ここでの生活は金銭的には苦労はないから、考えるのは雅の意思とご両親の気持ちだけにしてね」

 ありがたい言葉だった。リズが一度口にしたからには最後まで私のことを見守ってくれるのは分かっている。でも、そう簡単に答えを出せるとは思わない。

「ありがとう。リズ。よく考えてみるから、少し時間をちょうだい」

「そうね。よく考えて。雅の人生だもの。後悔の内容にしてね」

「うん、あ、あの、今日はもう寝るわ」

「そうね。おやすみなさい」

 私は自分の部屋に戻るとベッドに潜り込む。でも、寝ようと思っても目が冴えてしまうのだった。
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