君をひたすら傷つけて
 私は朝まで中々寝ることが出来なかった。昨日の今日でリズも私には答えを求めることはない。フランスに残るとしたら色々としないといけないことがある。大学の事もあるし、学費もあるし、何と両親に言ったらいいのだろう。

 私の両親は私がフランスに語学留学をすることを止めなかった。その根底には義哉を失った私が前向きに歩き出したことがあると思う。でも、今回のことは両親にとっては考えもしなかったことだろう。両親を説得したいなら、まずは私の気持ちを決めることだと思った。揺れる気持ちのままに時間だけが過ぎていった。

 語学学校に行き、時間がある時はリズの仕事の手伝いをする。答えが出せないまま普段通りに生活を送っていた。その間もずっとこれからのことを考えていた。


「どういったら親は納得するのかな?」

 ふと零れた言葉に自分の気持ちがあるのに気付いた。

 親を納得させたいと思う私はリズの下でファッションの仕事をしたいと思う気持ちがあるということ。それはリズに言われて五日目のことだった。ぽろっと何かが落ちるように私の気持ちが浮かび上がる。


 そして、私は親に連絡をした。

 このままフランスで語学留学を続けながら、ファッションの仕事をしたいと思っていることをお母さんに電話で言うと、お母さんは一瞬息を詰まらせた。『フランスでの学校』のことを言ってみた。素直に包み隠さずにいうことにしたのは私の真っ直ぐな気持ちからだった。『考えさせて欲しい』と最初は言われたけど、何日か後に連絡をしてきたかと思うと『自分の人生だから好きにしなさい。』といわれた。

 無理はしないこと。
 何かあったらすぐに連絡すること。

 そして、私が大学で後二年の分の学費が残っているから、足りなくなったらそれを使いなさいと言ってくれたこと。私はお母さんの声を聞きながら泣いてしまった。
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