君をひたすら傷つけて
『うん。元気にしてる。お兄ちゃんは元気?』

『元気だよ。で、今日はどうした。そっちは夜だろ』

『お兄ちゃんに大事な話があって…。今、大丈夫?』

『そうだな。少しなら大丈夫だ。今、海の撮影に来ている。今日は周りの雰囲気が良くて順調なんだ。演技は冴えているからテンポもいい』

 お兄ちゃんは担当しているのはモデルから俳優に転身した人で名前は篠崎海さん。インターネットでしか見たことないけど、抜群の容姿だけでなく演技力も定評があるらしい。それにお兄ちゃんのメールの端々に篠崎さんのことが書かれてあった。これはお兄ちゃん情報だけど、優しさと思いやりに溢れた人らしい。

 お兄ちゃんが嬉しそうに話しているのを聞くとホッとする。

『で、どうしたんだ。メールではなく電話ってことは大事なことなんだろ。帰国が決まったのか?』

『大学を休学することにして、しばらくフランスで生活を続けることにした』

『は?え?フランスで生活する?』

 冷静沈着な敏腕マネージャーと言われるお兄ちゃんの声はあまりにも大きくて、持っていた携帯を少しだけ耳から離した。両親は最初は驚いたようだったけど、お兄ちゃんほど驚きはしなかった。そして、その後の反応は全くない。

『聞こえてる?』

 電話の向こうの沈黙は長く、お兄ちゃんの言葉を待っていた。

『お兄ちゃん?』
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