君をひたすら傷つけて
 お兄ちゃんが私が帰って来ないから寂しいと言ったと思ったが、お兄ちゃんは私の両親のことを心配してくれただけだった。フランスの留学を決めた時も心配をさせて、それがまた伸ばしてしまった。他にも兄弟はいるのに心配を掛けてばかりだとは思うけど、私はここで頑張りたいと思っている。

『ありがとう。実はもう両親には相談して、フランスに残ることは言っているの。頑張って勉強して経験を積んで私はスタイリストになりたいの』

 私がもう決めていることを言うと電話の向こうで沈黙の中で溜め息が聞こえた。お兄ちゃんは私の言葉をどう思っているだろう。また、心配させるだけだろうか?

『それはもう決めてしまっての事後報告なのか?』

 事後報告と言われても仕方ない。お兄ちゃんの声を聞いたら、心が揺れるのは分かっていた。だから、先に自分の両親に気持ちを伝えた。

 ほどなく大学は休学され、スタイリストの基礎知識が学べる専門学校に入学するだろう。もう周りはゆっくりとだけど確実に動きだしている。

『事後報告というか、自分の気持ちを決めてからでないとお兄ちゃんには言えなかった』

『相談して欲しかった。でも、考えてみればそんな立場でもないか』


『そうじゃないの。自分の気持ちが固まる前にお兄ちゃんに相談したら、お兄ちゃんに帰って来いと言われたら決心が揺らぐと思った。だから、揺るがないだけの気持ちを固めてからにしようと思って』
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