君をひたすら傷つけて
お兄ちゃんの言葉に電話越しに頷く。受話器の向こうでお兄ちゃんが息を呑む音が聞こえた。お兄ちゃんは今、何を考えているのだろうか?

 
『フランスに残る』ということを一度口にしてしまったからには今まで以上に強い決意を持って頑張らないといけない。生半可な決心ではない。


 私がフランスに来たのはたまたま自己都合で留学を止めた人の代わりだった。義哉を失った私はどこか流されるように前に進んだと言えなくもない。日本を離れフランスで生活しながら、私は必死に頑張ったと思う。


 そして、スタイリストという仕事にも巡り合い、そのためにフランスに残る決意をした。今度は…自分の意思で決めて自分の力で歩き出そうとしている。



 それがどんなに厳しい道であるのか、まだ、私は知らない。遠く異国の地で、リズはいるものの、何があるか分からない。それでも、私は前を向いて進みたい。



「お兄ちゃん。頑張る。私、頑張るから。」
< 278 / 1,105 >

この作品をシェア

pagetop