君をひたすら傷つけて
 リズはアパルトマンに戻って来て、私と同じようにまりえは自分が帰国することを伝えた。悲しそうな表情は見せずにリズはニッコリと笑った。

「日本もそんなに遠くないし、いつでも会えるわ」

 まりえの帰国についてそのまま受け止めたようだった。リズは私が思うよりも遥かに強く逞しい。私にない強さに憧れている。仕事に対する姿勢も私の手本となる人だった。そんな素敵な彼女が私の友達であり一緒頑張りたいと思う仕事を与えてくれた人。

「今の仕事が落ち着いたら日本に事務所を開こうかしら。あ、その時は雅を引き抜くから気合い入れていいスタイリストになっててよ。仕事の出来ない人間は要らないから。まりえはジムでもする?」

「事務ってなによ。私はフランス語を生かした仕事がしたいの」

「私の事務所でフランスとの通訳でもすればいいでしょ。事務は出来るし、人当たりもいいし、お買い得物件よね。まりえの能力は買っているから」

 ニッコリと笑いながらサラッと言ったけど、その顔には少しの真剣さも含まれていて…。半分くらいは本気かもしれないと思った。

「リズの日本の事務所で雅と私とで働くなら、給料はリズに頑張って貰わないと」

「そうね。二人の能力に見合うだけは出すわよ。ねえ、お腹空いたんだけど、何かある?」

「簡単な物だったら作るわ。リズはワインを用意して。雅はテーブルの上を片付けてね」

 片づけをしているとスッと横を通ったリズは真面目な顔をして私に囁いた。

「明日は期待してる」

 そんなリズの言葉に微笑み。その夜は三人でワインで酔った。

 まりえの帰国の日にちが決まったのはそれからしばらくしてからのことだった。


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