君をひたすら傷つけて
 私はお兄ちゃんと一緒に食後のコーヒーを飲みながら、どこに行ったらいいのかを考えていた。

 有名な観光地は地下鉄を使えばいくらでも動けるし、遠くの郊外に行きたいと言わない限りはどこでもいける。予約をしないといけない場所以外ならどこでもと思っていた。でも、お兄ちゃんは一番困るリクエストをしてきた。『雅がいつも過ごしている場所』が見たいと。

 フランスには観光の名所はいくらでもある。ルーブル美術館もあるし、凱旋門、モン・サン=ミッシェルもある。

「まずは雅が通っている学校に行きたい。それから、よく撮影に使うスタジオにも行ってみたい。前に手紙で書いていた暇な時に過ごす川べりも散歩してみたい。

「そんなのが楽しいの?」

「一番気になることだからね。俺は雅がフランスでどんな生活をしているのか気になっていたんだ」

「じゃあ、まずは私の学校から行くね。と、いってももう卒業だけど。その後はスタジオに行って、川べりで散歩する?」

「ああ。それで」

 随分な物好きだとは思うけど、それ以上にお兄ちゃんらしい。

「じゃ、コーヒーを飲み終わったら行こうな」

「ああ」

 一緒に食事をしたカフェの近くから地下鉄に乗り、学校の近くまで行く。駅から出て少し歩くと、そこには一年間通った学校が見えてきた。フランスでも由緒ある学校なだけあって、煉瓦造りの重厚な校舎だった。ここで私はスタイリストとしての修業を積んでいる。
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