君をひたすら傷つけて
　お兄ちゃんはベンチに座って、流れる川を見ながら腕を空に伸ばす。筋張った腕が空に向かって真っ直ぐに伸びていた。こんな風にリラックスしているのをみると有名な観光地でなく、こんな休日の過ごし方がよかったのかもしれない。人によって価値は違うから正解というのは人によって違う。

「こんなのでよかったの？有名な観光地もいっぱいあるのに」

「それはいつでも見れるけど、雅の生活しているところは今しか見れないだろ。今回はいい休暇になったよ。こんなに楽しいと帰りたくなくなるな。フランスに来たのは初めてだけど、好きになったよ。本当に楽しかった」

　お兄ちゃんの言葉は楽しい時間が終わりに向かっている気がした。お兄ちゃんは明日になると日本に帰国する。出張のついでに有給休暇をフランスで取ってくれた。でも、明日には居なくなる。

　いつもの生活に戻るだけなのに寂しい。

「仕事、そんなに忙しいの？」

「今は仕事に生きがいを感じている。マネージメントをしている俳優を大きな俳優に育てたいんだ。育てたいというか、自分で前に行く男だから、それを私は後ろから支えるという感じかな？」

「お兄ちゃんがマネージメントしているのは前にモデルとしていた『篠崎海』よね。彼ってどんな人なの？」

　大学生の時にモデルとしてデビューをして、今は俳優業も少しずつ初めていて、徐々に活動の場を広げている。インターネットで写真は見たことあるけど驚くほどの綺麗な男の人だった。
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