君をひたすら傷つけて
「これは会社にあったものだから雅からお金を貰うつもりはないわ。アルベール・シュヴァリエに対抗するにはこれくらいの服を着ないと。会議が終わってからディーに部屋を借りるのは連絡しているから大丈夫」

 リズの言葉を聞いていると、私とアルベールは何かの争いをしているのだろうか?服で対抗するという意味が分からない。

「普通でいいと思う」

「女は可愛くないと。特にアルベールとかは綺麗過ぎるでしょ。傍に居て霞むなんか嫌だわ」

 アルベールが綺麗なのは皆が認めるところであるのに、それを私が多少頑張ってもそんなに変わらないだろう。それに、どんなに着飾ってもアルベールの美しさに敵うわけない。競う方がおかしい。それにディーさんに部屋を借りているのも手際が良すぎる。

「アルベールの方が綺麗なのは事実だし」

「それでも最大限頑張るの。会議が終わってから一気に仕上げるから、その前に軽く準備をしましょ」

「そんなにしなくてもいいよ」

「これも仕事の一環よ」

 リズの勢いに私が敵うわけない。リズの言葉に仕方なく頷くとそれからは着せ替え人形となった私がいた。リズの言われるままに服を着替えていくと厳しいリズの視線が投げ掛けられた。

スタイリストとしてのリズの視線は鋭く私にグサグサと突き刺さる。まだ、まりえがここに居た頃。ふと零した言葉を思い出す。あの頃、まりえもリズのマネキンのように練習台にされていた。

 今回は練習台というよりは『本番』。そして、今はリハーサルの真っ最中だった。
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