君をひたすら傷つけて
 アルベールと私が案内されたのは窓際の一番奥の席だった。

 確かに個室でも窓際でもないけど人目を気にせずに聞こえてくる音楽が楽しめるいい席だった。窓からは素敵な夜景が広がり遠くにエッフェル塔も見える。フロアを見ると少し先の方にグランドピアノが置いてあり、そこ横に弦楽器を持った四人の奏者が緩やかな音楽を醸し出す。ピアノと弦楽四重奏を聞かせる店の雰囲気はしっとりとしていた。

 私は促されるまま座り心地のいい椅子に座ると弦から紡がれる音楽の流れる方から目を離せなかった。音楽が特別好きというわけではないけど、こんな風に生演奏で聞かせるレストランというのも初めてで自分がここにいていいのかと思ったりもする。

「雅。なんか緊張してる?」

「こういうお店ってそんなに来たことないし」

 お兄ちゃんと一緒に色々な店に行ったことはあるけど和食が多く、こういう本格的なフレンチの店は初めてだった。フレンチだけならあるけど、そんな私を見ながらアルベールはクスクス笑っている。そんな笑い声に惹かれるように視線を移すと、アルベールは私を見つめていた。

「音楽もいいけど、先に飲み物だけでも頼もうか食事は後でもいいから。雅は何を飲む?やはりシャンパンかな?それともワイン?」

「どちらでもいいけど、アルベールはどっちがいいの?」

「俺もどちらでもいいけど、今日は気分的に楽しい雅とのデートだからシャンパンの気分かな」
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