君をひたすら傷つけて
 改めてデートと言われると『これはデートなんだ』と思う。アルベールに好きと言われ、でも、中途半端なままの私なのにこんなに大事にして貰っている。申し訳ないと思いながらもアルベールの優しさに甘えてしまっていた。

 アルベールのことは好きだったけど恋とは違う。義哉に恋をした時のように苦しくなるような、そして、掻き毟られるような思いもない。身を焦がすような恋を私はもう出来ない。不意に義哉のことを思い出してしまう。でも、それは心の奥底にしまうことにする。そして、アルベールに向かって口の端を上げて見せる私がいた。

「ありがとう。アルベール」

「ん?」

「楽しい」

「それならよかった。さ、今日は美味しいものを食べよう」

「オススメは?」

「そうだな。、雅は何が好き?」

「嫌いなものはないわ。苦手なものはあるけど」

「苦手なものは?」

「笑わない?」

「笑わないよ」

「ピーマンが苦手なの」

「分かったよ」

 アルベールがニッコリと微笑んでくれたので、その顔を見ながらこれでよかったのだと思った。シャンパンから始まる食事はコースではなくアラカルト。私が好きなのを中心に選んでくれるから、出されたものを食べる。口に入れて、美味しいと顔が緩むのを感じた。
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