君をひたすら傷つけて
 目の前にいるアルベールの澄み切った瞳を見ていると、私は申し訳ないと思うと同時に癒される。リズとまりえと始まったフランスでの生活。そして、まりえの帰国後、リズのイタリア進出と度重なる環境の変化に流されそうになった私をこうやって支えようとしてくれている。異国の土地で自分の気持ちを晒せる場所は何よりも価値があることを私は知っている。

「ありがとう」

「帰したくないっていってありがとうと言われると困るな」

「そう?」

「そうだよ」

「でも、アルベール。ありがとう。明日は仕事だから無理だけど仕事が終わったら電話するから」
 
 私がそういうと、アルベールは満足げに微笑みを浮かべた。月明かりに中、静かに佇むアルベールの姿はとても綺麗で一枚の絵のようにさえ見える。スマートな体躯を彩るのは青白い月の光。少しの影を纏いながら見つめる瞳は吸い込まれそうなほどの輝きを持っている。モデルという仕事をしているだけあって、アルベールは姿勢が綺麗で、真っ直ぐに視線を投げてきた。

「楽しみにしているよ」

 会えないけど仕事が終わったら電話するというだけでこんなに嬉しそうな微笑みを浮かべられるとどうしていいかわからなくなる。

「雅に負けないように俺も仕事を頑張らないとな。明日は雑誌の撮影なんだ。といっても昼過ぎからだけど」

「遅くまで起きていていいの?」

「雅とのデートが楽しかったから今日はよく眠れるよ」

「そんなものかしら?」

「ああ。そんなものだよ」
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