君をひたすら傷つけて
 アルベールにアパルトマンまで送って貰って、タクシーを降りると、私と一緒にアルベールも降りてきた。

「おやすみ。雅」

 そう言うとフワッと抱き寄せてくれて、額に触れるだけのキスを落とした。額に熱を感じ…。顔が赤くなっていくのを感じた。そして、また綺麗な微笑みを残してアルベールを乗せたタクシーは暗闇の中に走り出した。

「おやすみなさい」

 暗闇に向かって呟く私が居た。

 息を吐いてアパルトマンを見上げると、私の部屋の窓からは電気の光が零れている。
 
 リズがまだ起きている。

 私は急いでリビングに続く階段を上った。そして、ドアを開けるとリビングのテーブルで書類を見ているリズの姿があった。テーブルの上に広げられた書類はイタリア語で書かれていて、事務所開設の資料だと分かった。

「ただいま。リズ」

 リズは帰ってきた私を見つめ酷く怪訝な顔をした。自分の家に帰ってきたのに、ここにいるのがおかしいみたいな態度を取った。そして、その怪訝な表情を説明するかのような言葉を口にしたのだった。こんなことをハッキリいうのがリズらしいとも思う。

「なんで帰ってきたの?今日はアルベールのところに泊まってくると思ったのに」

「食事して帰ってきただけよ。アルベールも私も明日は仕事だし」


 リズは私の姿を上から下まで視線を流して大きな溜め息を零した。

「こんなに可愛いけど、アルベールにはお気に召さなかったか」

「どういう意味?」
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