君をひたすら傷つけて

愛するということ

 静かに始まった私とアルベールの付き合いは友達の延長でしかなかった。それでも少しずつ時間を過ごしていく度に間にあった壁が薄くなっていく気はした。一緒に食事を行くことは何度もあったけど、この頃は優しいだけでなく蕩けるような微笑みを私に向ける。真っ直ぐに向けられる好意はやはり恥ずかしさとむず痒さを感じさせたがそれでも嬉しかった。

 そっと腰に添えられたエスコートの手に戸惑いもなくなった。だからといって、私の意思を考えないような振る舞いをするアルベールではなく許容範囲を探っているようでもあった。

 愛されているという実感があった。『好き』と言われたのに言葉で返すことが出来なかった私はアルベールの優しさに甘えていた。

 アルベールも私に彼女らしいことを求めてくることはない。ただ、傍にいるだけだった。

「雅。手を繋いでもいい?」

「恥ずかしいから聞かないで」

 友達の時と違うのは二人の間の距離が少なくなったことくらいかもしれない。初めてのデートからしばらくして、自然と私の手をアルベールの手に包まれることが多くなった。繊細な手は優しく私を包み、明るい陽射しの中にゆっくりと引いていく。

「ドキドキしているって言ったら笑うか?」

「笑わないけど」

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