君をひたすら傷つけて
 それはレストランの食事が終わりに近づいた頃の事だった。今日のコース料理はいつも通りに美味しい店でさすが一流のモデルの紹介だと思った。海鮮のカルパッチョから始まるコースは魚料理も肉料理も細やかな盛り付けで女の子を喜ばせるもので、どれもこれも美味しい。自然と顔が緩んだ。

 最後のデザートがくる少し前に、アルベールはフッと真剣な表情を浮かべ、何か言葉を飲み込んだ。

「美味しい?」

 そう聞いてきたけど、アルベールが私に言いたいことは別だと思った。そう思ったのは勘だった。

「美味しいよ。アルベール。私に何か言いたいことあるの?」

「いや、あの、気にしないでいいよ」

「何かあるなら言って。私に出来ることならするよ」

「……。嫌なら断ってくれていいから」

「何?」

「来週は自分で言うのは恥ずかしいけど誕生日なんだ」

「うん。知ってるよ。何か欲しいものがあるならプレゼントしたいと思っていたの」

「お願いがある」

 付き合い始めて半年が過ぎていて『お願い』という言葉にドキッとしてしまった。付き合い始めて三か月を過ぎた頃からリズが煩くなっていた。少しはフランスの流儀に合わせるのも必要だと。

 パリの街では恋人たちが二人の世界をつくり、街角でキスをしている人もたくさんいるし、恋人同士で一緒に住んでいるのも当たり前。日本とは全く違う。そんな中でアルベールに言われた『お願い』は私を緊張させた。

「そんなに緊張した顔しないでいいよ。雅が想像しているようなことじゃないから。まあ、想像しているようなことを望むならもちろん応えるよ」
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