君をひたすら傷つけて
 マルシェで選んだものはシーフードドリアとサラダの材料だけだったけど、シーフードドリアだけでなくサラダもお誕生日仕様に具材も豪華にした。それらの物を冷蔵庫の中に入れると中が華やかになる。

 そんな冷蔵庫をアルベールは後ろから眺めると私の耳元に甘く囁くような声を出した。アルベールにしてみれば普通に声を出しただけかもしれないけど耳元で囁かれる艶のある声にドキっとしてしまった。

「なんか別の家の冷蔵庫みたいだ」

「アルベールも外食もいいけど、たまには家で自分で用意して食べるのもいいと思うわ。だって、栄養が偏るでしょ」

「そうだね。でも、俺って料理がそんなにうまい方じゃないから家で食べる時もデリをテイクアウトすることが多いんだよな。あ、いいこと考えた」

「ん?」

「雅が俺のために作りに来るっていうのはどう?」

 アルベールは甘えたような声を響かせて、ふわっと後ろから抱き寄せたのだった。背中から抱き寄せられた瞬間、ドキッとしたけど温かいものが心を包んでいく。微かに香るアルベールのコロンがいつもよりも強く感じるのはそれだけ私とアルベールの身体が密着しているからだった。

「毎日は無理だけど、たまに来てもいい?でも、栄養士じゃないからモデルであるアルベールの好む料理は出来ないよ」

「雅が作ってくれるってことに意味があるんだよ。楽しみ過ぎる」

「本当?」

 私を包むアルベールの腕の力が強まった気がした。首筋に感じる吐息が甘く感じるのは気のせいじゃない。そのくらいは私にも分かる。言葉を聞かなくても答えが分かる。

「雅が来てくれるなら大歓迎だよ」
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