君をひたすら傷つけて
「うん。また来るよ」

 スッとアルベールの腕の力が緩むと伸ばした手は冷蔵庫のドアが閉められた。そして、私の身体はふわっと空に浮いた。急に浮いた身体に驚いて咄嗟に腕を伸ばすとアルベールの綺麗な顔が間近にあって、またまたドキッとする。

「楽しみだよ」

 そういうとアルベールは私をそのままリビングに連れて行き、クルクルとダンスを踊るように回るのだった。最初は回っていただけなのに綺麗な三拍子でワルツを踊っているようだった。

「アルベールは踊れるの?」

「小さい頃、姉さんの練習相手をするために習っていたんだ。俺が教えるから雅も踊ってみる?そんなに難しくないよ」

 難しくないというけどワルツなんか無理だし、そういう環境で育ったわけでもないので、無理だと思った。

「ううん。いい。重いから下ろして」

「そう。じゃあ、気分だけでも味わって」

 アルベールはさっきよりもスローなペースで私を腕に抱いたまま、広いリビングを回る。下ろしてと言った私の言葉は綺麗に流されていて微かに上下に揺れる身体は思ったよりも心地いい。何も音は聞こえないのに、頭の中で綺麗な音楽が流れているかのようにアルベールは優雅に踊る。そんなアルベールに抱かれたまま、私も少しだけワルツの世界を味わった。

「重いでしょ」

「全然。むしろ軽すぎる。スタイリストの仕事はハードだもんな。これ以上痩せたら怒るよ」

 そんな言葉ともに優しい微笑みを向けられるとやっぱり嬉しくて…。幸せだと感じた。
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